古い映画ではあるが、先ごろBSPで平成二十五年制作の標記の作品を観た。加藤剛に始まり、松田龍平、宮﨑あおい、言い脇役となったのがオタギリジョー。それにベテラン勢の小林薫、渡辺美佐子、黒木華や池脇千鶴などの名優が脇を固める。
ストリー的には、定年を間近に控えて後継者を探していた辞書編集部のベテラン編集者・荒木に引き抜かれ、辞書編集部に異動することになる。社内で「金食い虫」と呼ばれる辞書編集部であったが、馬締は言葉への強い執着心と持ち前の粘り強さを生かして、辞書づくりに才能を発揮してゆく展開。
作中では辞書作りの『大渡海』の刊行計画のため編纂が開始される時代と、その13年後以上(映画版では12年後)の時代が舞台。主人公は馬締 光也(まじめ みつや)役の松田龍平、主人公。玄武書房辞書編集部員。27歳。大学院で言語学を専攻したのち入社して3年目。入社当初は第一営業部に配属されるが、皮肉が通じず他人の言うことを額面通りに受け取るなど、対人コミュニケーション能力の低さから厄介者扱いを受けていた。しかし言語学専攻のキャリアと言語感覚の鋭敏さを荒木に認められて辞書編集部にヘッドハンティングされ、辞書作りに没頭していく。
「早雲荘」という下宿に学生時代から住み続けている昭和レトロを彷彿とさせる設定が面白い。その先は見てのお楽しみだが、迫力こそないがそれぞれの人物像、事の運びが深いと感じた。
この辞典は「ら抜き」や「憮然」のように日々変化を遂げる日本語を解説する「今を生きる辞書」を目指す。それが劇中の『大渡海』。見出し語が24万語という大規模なものだ。編集に10年以上を要するのが当たり前という。結局発刊までに13年を要した。
そこには気の遠くなるような時間と、人との関り、情熱、熱意、執着やコダワリがある。コミニケーションの難しさ、ひと人との信頼感、愛情などが主人公を通して投影される。そしてこの間になくなる方も大勢いることが時間の経過を象徴する。
当方の知り合いにも業界紙として個人営業的な仕事を一人で熟している男がいる。クオリテイは映画のようなわけにはいかないが、取材、起こし、推敲、編集、印刷、発行、配達、購読料の回収を職人技で熟している。
映画の中でも、初稿から始まり、第五稿まであって、途中で抜け落ちた語句が見つかり泊まりがけで社員総出で仕事(推敲)のやり直しに取り掛かる。事務所は仕事場兼生活空間、机の下はゴミだらけ、室内には洗濯物までが干してある。
このリアリテイ、知り合いからも聞いてたがこれほど過酷とは・・・。それに辞書の紙質まで配慮する細かな編集、出版作業。この映画を観て、この仕事のキツさ、辛さに驚いを隠せない。
劇中にもあるが何を目指すかによってその紙面の性格や姿勢は大きく変わる。まずは何はなくても、現実に何が起きているのかを見極める取材(能力)、ネタ整理、そこに編集と主張があればこそ、作品や紙面に奥行きと幅ができるというもの。
素人ながら口憚った物言いをしたが、どうかこれからも彼を陰ながらお応援しエールを送りたい。「腐るな」、「負けるな」、そして「メゲルナ!!」