片桐はいりは、映画好きで有名だ。「映画は夢、映画館はふるさと」とも言い切っている。トークショウでも「私は映画館で産まれた」ともいいっている。学生時代から「もぎり」(市ケットの半券をもぎ取る担当者)を7年も続け、いま女優の地位を確立した。
映画は遺跡巡りだといって、都内や地方の映画館に脚を運んでいる。尤もご自身でも映画館を運営している。当方が幼少のころ、初めて父兄同伴で親父が映画館に連れて行ってくれた。次の上映時間まではタバコ臭い館内の立ち見だ。席が空くのを待って一番席を親父と一緒に走り求めた。
題名は「ミクロの決死圏」。洋画で字幕を追うのが大変だったが映像からは、そのストーリーが子供の当方でもよく分かった。
これまで印象に残っている映画は邦画では「砂の器」、「楢山節考」と洋画では「カッコーの巣の上で」と「真夜中のカウボウイ」だ。これほど、過ぎ去りし昔が懐かしい。貧乏で食べることさえままならなかった時代。TVもなく、電気は来ていたが水道はなく、近所の井戸に水汲みをするのが当方の日課だった。
そんな時代、ご褒美で外食するのは唯一の楽しみで映画鑑賞など極上の娯楽だった。今や街の食堂はファミレスに変わり、八百屋や酒屋はスーパーやコンビニ取って代わられた。
便利さや速さ、低価格だけを求める今の世の中、手間暇や時間をかけてスローライフを愉しみたいと思うのはこの徳兵衛だけか?
ちなみに片桐はいりのお薦めはフィンランドで撮影した「かもめ食堂」だそうだ。日本語セリフ回しに邦画の魅力を感じるという。アナログ時代のおっさんたちは次々にこのデジタル社会から取り残されていく。
(今日のおまけ)
家の息子の一人は、映画製作に近いような仕事に就いている。この子も小さい頃から映像や映画に興味を持っていた。それは今も変わらず、デジタル技術を駆使して懸命に過去を取り戻そうとしている。
彼の映画好きは本気だとお思ったことがある。今から十数年前、区画整理で廃業となる田舎町の古い映画館を買い取りたいと言い出したことがあって当方に資金支援を求めてきたことがあった。その映画館はよく夏休み出かけた長野県松本市城東の「テアトル銀映館」。薄給で社宅住まいの当方には、到底、息子の夢を叶えさせてあげられなかったことは言うまでもない。
そんな息子は、いまだその夢を諦めていない。我が家の「片桐はいり」かもしれない。