Koushuyaの徒然日記・オフィシャルブログ

多くの方々からブログ再開のご要望をいただき、甲州屋徳兵衛ここに再び見参。さてさて、今後どのような展開になりますやら。。

麻酔

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 この本は1時間ほどで終わる予定の、ごくありふれた子宮筋腫の手術を受けた既婚女性が麻酔医のミスで、覚醒しないまま植物人間になって最後は命を落とすことなってしまう筋書の小説「麻酔」。リアルに医療過誤、事故をテーマにした渡辺淳一の影の代表作である。

 

 渡辺の小説といえば「失楽園」や「愛の流刑地」など、男女関係をテーマにした小説が有名だが、彼はもともと札幌医大の外科教室講師であるからこうしたドキュメンタリータッチの医療小説は得意技のはずだ。重病による激痛から鎮痛・麻酔薬依存となった医者と製薬会社のプロパー女性との関係を浮き彫りにした「無影燈」もそのひとつだ。

 

 渡辺淳一の小説家への転機は和田心臓移植事件をテーマにした「小説・心臓移植」だと云われている。これに立ち会った氏は研究と医療技術の進化とともに生かされ、最後は途絶えていく患者の命の在り方に疑問を抱いたのだろう。そして、究極の自然死は男女の心中であると医学界の向こうを張って、小説の世界でそれを叫びたかったのではないかと勝手に思い込んでいる。

 脊椎麻酔は、短時間かつ下腹部の手術のときに選択される麻酔方法。ただ麻酔医の判断で脳死することさえあり、術後の管理でも麻酔医が関与することが多い。全身麻酔も同様だが、手慣れてハイリスクな手術ではないと思っていても、一歩間違えれば昏睡状態に陥ることも後遺症や障害、そして死に至ることもある。

 

 いかに経験が豊富な執刀医、助手でも麻酔医でも、症例や手術数を誇る大病院でも患者も医者も、人間だ。そして、一つの油断が患者はともかく家族や周囲を翻弄させ、それぞれの人生をも狂わせてしまう。この小説なかに患者である奥さんが、植物状態であるにも拘わらず、薄っすら目を開けてご主人に微笑む場面で、ご主人が快復したと錯覚する場面がある。この場面、いまでも強烈な印象が脳裏に残っている。

 

 気の緩みは、敵より怖く自分の心の中で失敗の原因が作られる。徳兵衛、四度目の検査で手術決定となった際は、術中、術後は寝たまま意識が戻らないこともある。その先は家族に相当な迷惑と負担を強いることになり、やがて家族に最終判断を下してもらうことにもなりかねない。押し迫った検査を前に、ふと昔読んだ小説「麻酔」が何回も頭をよぎった。「主文:患者を外科手術に処し懲役入院2カ月を課す。判決理由・・・・・・・」、夫婦を前に判決は2月9日(木)に言い渡される。

 

(今日のおまけ)

 会社勤め時代、見知らぬ人に必ずと言っていいほど良くであった。出勤途上ではご近所では「朝焼けのマドンナ」、通勤電車の中では「お出かけのマリア」、下車すると地下道では「お仕事小町」、乗合バスに同乗する「ハイカラさん」。取引先の声の良い女性担当者は「ウグイスお嬢」や自社の老練な女性上司は「皇太后」などと、自分の頭の中で勝手にあだ名をつけて、憂さを晴らしていた。そして帰宅途上で、必ず出会う女性がいた。徳兵衛がつけたあだ名は「魔法使いサリー」ならぬ「魔女の宅急便」。駅の改札前でいつも誰かを待っているようだった。その姿を見て、当時よく渡辺淳一の小説を妄想していたが、徳兵衛、残念ながらその頃すでに「没落園」。お粗末!!