Koushuyaの徒然日記・オフィシャルブログ

多くの方々からブログ再開のご要望をいただき、甲州屋徳兵衛ここに再び見参。さてさて、今後どのような展開になりますやら。。

カーテンの向こう側

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 まだ年が明けて3日目だというのに、今日はおめでたいお話ではなく、昨年末に後日談としてブログ掲載をお約束していた少々シリアスなお話。

 

    入院中、いろいろなことを見聞きした。勤務医が多い大学病院の労働環境は過酷で隣接のJ医院などは、プロパー医師以外のドクターや看護師にとってはブラック病院だとも聞く。だが、ボーナス査定は意外と割高で、お勤めのみなさんは、何とかそれを糧に踏ん張っていると聞いた。また、港区のJ医大付属病院はJが故にジャニーズ事務所や芸能人の御用達とも聞いた。

 

 とにかく大学病院は若手の職員が多い。そりゃそうだわな!過酷な夜勤が続く勤務は中高年の医師や看護婦にとっては体力的に相当きつく、そうしたベテラン連中は診察外来に回る。だから、最近病室担当に若手の男性看護師が増えてきているのも無理からぬ話だ。

 

 そのうち、男女に限らず看護師も医師も患者も日本国内でありながら外国人関係者で埋め尽くされる日もそう遠くはない。だから、大病を患っている純国産の日本人の方々がここにおいでなら、今のうちに大手の総合病院に診てもらった方が賢明だ。

 

 それはさておき、病床は患者のそれまでの人生と価値観が凝縮された空間だ。当方が二人部屋に入院中、当方とほぼ同年代と思しき男性患者が隣のベッドに運びこまれてきた。患者は電気工事系の熟練の元社員らしく多くの関係者が見舞に訪れ、患者のお子様の家族も相次いでお見舞いに来る。慌ただしい時間が過ぎ、患者夫婦だけになった時、その会話が仕切りのカーテン越しに漏れ聞こえてくる。

 

 どうやら病状は深刻な様子で、すでに患者自身は「最期」を覚悟しているようだ。会話の内容というと「緩和ケア」の段取りに始まり、自宅に置いてある貴重品、財産のことや死後の始末などを奥方様に丁寧に伝えている。それを素直に穏やかな返事で答える奥方様。昔からそんな夫婦だったのだろうと羨ましくも思った。そして話は病室の差額ベッド゙代、健康保険の取扱いや葬儀費用等ついてまでに及ぶ。「最期」だというのに妙に目先の現実的な話に会話が集中している。

 

 夫婦の話が終わろうとしたとき、患者の旦那さんが一言「この大学病院に献体したい」といきなり切り出した。驚いたのは聞き耳を立てていた当方。それをよそに奥方様は冷静に淡々とその旦那様の願いに優しく応えている。夫婦の会話の穏やかに冷静なやり取りを聞いていると、ここまで来るのに二人きりで相当の話し合いがあったのだろうと感じた。夫婦の間に焦燥や困惑といった雰囲気は微塵も窺えない。長年苦楽をともにした夫婦でしかできない会話だ。とはいえ奥方様の心の中は分からない。

 

 そのことをいきなり伝えられ驚いたのは病院関係者。コーデイネーターが冷静な判断を求めようと、病室の入退室が慌ただしい。本人の意思確認はもとより、奥方様や家族の同意の重要性を説く。それでも本人の意思は固く、一向に譲らず以後の治療も積極的な治療は望んでいないことがしっかりと関係者に伝えられた。後で判ったことではあるが「献体」の申し出は、トラブル回避のため患者本人の意思より遺族の同意の方が重要らしい。

 

    何のための入院であり、何のための治療であり、この患者の死生観は何処にあるのか?ずっと息を殺してカーテン越しに隣のベッドでその会話を聞いていた当方。「生きるとは何なのか」「何のために生きるのか」そして「死ぬということは何か」や「なぜ偶然にもここに当方が居合わせたのか」を真剣に考えさせられた入院中の一シーンだった。

 

 当方、この同輩患者の域には、遠く足元にも及ばないが、そんなことすら考えずにこうして手術をして生きながらえることができるのは、ある意味で幸せなのかもしれない。

 

 そして翌日、彼は最上階の緩和病棟に移った。

 

 

   ※ 掲載写真は入院当時、病室から眺めた日の出前のスカイツリー